店主のひとりごと

 

  • 2021年07月10日(土)10時23分

SN比が違う

6月17日にアップした店主の独り言「SN比が違う」が私の不手際で消えてしまいましたので、再度アップします。ただ元の原稿もどこに行ったのか分からなくなりましたので、内容が少し異なっています。

レコード店を始めるとき、シンメイさんから「音質評価をやったほうがいいのでは?」との提案で音質評価をやるようになった。最初は何を基準にやっていいのか掴めていなかったが、長年やるうちに聴き方も変わってきて、聴くポイントがはっきりしてきたのは事実である。いくつかのポイントになる出来事があったので紹介してみよう。

元々私はステレオ聴きであって、モノラルをあまり評価していなかった。ただ、ご来店いただくお客様の中には「私はモノラルを中心に聴いています」とおっしゃる方もいたのだが、あまり人の言うことを聞かない私は大して気にもしていなかったし、当時のシステムではモノラルの素晴らしさを出せていなかったのである。
ところが、鳥栖のO石さんから「Gradoのモノラル・カートリッジを取り寄せて欲しい」との要望があり、取り寄せて佐藤俊哉さんと一緒に取り付けに行ったことで、モノラルに対する認識がガラッと変わったのである。この話は以前も書いているので省くが、モノラル・カートリッジで聴くモノラル盤はステレオ・カートリッジで聴くモノラル盤とは全く違うということがはっきり分かり、私も直ぐモノラル・カートリッジを導入した。

10年ほど前だったが、神戸のI村さんが”Doris Day / Duet”を購入されて「ヴォーカルとピアノではSN比が違いますが、新納さんはどう思われます?」との質問があった。ん、何だ?そこは全く気にしていなかった部分である。その時は手元に同じレコードもなかったので、明確な返答は出来なかったが。I村さんは録音などもやっていらっしゃって、音を聴くという点ではかなりのレベルの方である。

その少し後に評論家の田中伊佐資さんがやっているミュージックバードに出演する機会があり、私の好きなレコードを何枚か持っていって紹介した。番組の中ではなかったと思うが、田中さんやプロデューサーの方とレーベル毎に音が違うといった話をしていたとき、プロデューサーの方が「プレスティッジにはテナーサックスなどにリバーブをかけ過ぎているものがありますが、私はあまり好きではありません」とおっしゃった。

1940年代から50年代にかけて、レコードを制作するとき多重録音、リバーブをかける、イコライザーで補正をするなど様々な手法が発達してきて、現在の録音と50年代、60年代頃の録音は全然違うものになっている。ただ、初期の段階では新しく出てきた手法をまだ消化できずに使用していた事もあったのだろうと想像している。

私の聴くポイントも最初は感覚的なもののウェイトが高かったが、最近は前述のリバーブや多重録音などの要素も加味するようになってきて色んな方向から聴くことが出来るようになってきた。まだまだ発展途中である。

”Doris Day / Duet”に関しては、ドリスの声に若干のリバーブがかかっていて、ピアノにはかかっていない。それに、プレヴィンのトリオとヴォーカルでは位置的に不自然な部分があるので、多分これは多重録音だろう。しかし、それがレコードの出来を損なっているわけではなく、素晴らしいレコードである。

”Doris Day / Duet”

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  • 2021年05月28日(金)10時59分

五感を駆使して

我々人間には五感というものがあり、その種類は視覚、聴覚、味覚、嗅覚そして触角に分けられる。レコードを聴く場合、皆さんはどの感覚を用いている?と聞いた場合多分「聴覚」との答えが帰ってくると思う。

オーディオフェアなどに出かけるとたくさんのメーカーさんや輸入代理店の方との出会いがありやよく話をするのだが、中には凄い詳しい方もいらっしゃる。10年ほど前、輸入代理店のN村さんと話をしていた時「レコードを上手い具合に再生できたときには色彩が見えることもあり、また香りを感じることもある」とおっしゃったことがあった。
これは私もうっすらとは感じていたことだが、その頃はあまり確信的に考えていたことではなかった。元々私の場合は音を見ている事が多く、当然聴覚も使ってはいるが見ているウェイトが高いのである。

50年代のモダンジャズを聴いているとブルー系の色を感じることもある。「マイルス・デイヴィス/カインド・オブ・ブルー」などはその代表的なところである。
別嬪さんヴォーカルには色彩感を感じることが多く「ロンダ・フレミング/ロンダ」などは正に総天然色テクニカラーである。
音を見ていると色々感じてきて、アビー・レーンやジュリー・ロンドンほか別嬪さんヴォーカルがからはフェロモンを感じることもある。フェロモンは香りであり、これは嗅覚なのだ。
かなり前に熊本でレコード店をやっているO原さんが見えた時「泉谷しげる/光と影」をかけたら、「手を差し伸べたら触れるように感じる」とおっしゃったことがあったが、これは触角である。
演奏の中には甘い、辛い、しょっぱいものもあり、これは味覚である。
いくつか例を挙げてみたが、私達は気付かないうちに五感を駆使してレコードを聴いているのである。

「カール・リステンパルト / Hydon / Symphonien No 31」を聴いていたら、ヴェルサイユ宮殿で貴婦人たちが優雅に踊っている様子が目の前に浮かんできた。他にもレコードを聴いているとその曲の持つストーリーが浮かんできたり、また喜び、悲しみなどを感じることもある。これは第六感が働いているのでは?

持っている感覚を駆使して色んな角度から聴くと伝わってくるものが変わってくるのかも知れない。

Rhonda Fleming / Rhonda

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  • 2021年02月10日(水)10時24分

初めてのお客様

先日始めてもお客様が見えた。レコードマップをご覧になって、こんなところにレコード店があるということでのご来店だ。

お客様:どんなレコードがありますか?
店主:ジャズ、ヴォーカル、クラシックそしてロックと揃っています。オリジナル盤がメインです。
お客様:オリジナル盤とは?
店主:レコーディングされた国で最初にレコード発売されたものとジャケット、センターラベル、盤などが同じものをいいます。
お客様:私達が聴いている最近発売されたレコードやCDとは違うんですか?
店主:音が違います。比較すると違う音楽に聴こえたりします。そしてジャケットの作りも時代とともに変わりますので、作られた時代の雰囲気があります。聴いていただいたほうが早いですよ。気になるレコードがあったらかけてみます。

お客様はそれからレコード棚を眺めて、「ジュリー・ロンドン/ジュリー・イズ・ハー・ネイム」取り出したので早速かけてみる。曲はもちろん「クライ・ミー・ア・リバー」である。
お客様:ライブを聴いているみたいです。こんなレコードは初めて聴きました。

それからジャズのインストやロックなどお客様が取り出した&私がセレクトしたレコードをかけてみる。「ドナルド・フェイゲン/ナイト・フライ」、「マイルス・デイヴィス/ゲット・アップ・ウィズ・イット」、「ジョニ・ミッチェル/ワイルド・シングス・ラン・ファスト」、「ジョニ・ミッチェル/フォー・ざ・ローゼズ」、「スティーリー・ダン/エイジャ」などなど。
音のレベルが高いレコードばっかりだったので、お客様はとても喜んでいらっしゃる。

質問も次から次に。
お客様:私の使っているシステムは安いミニコンポに近いものですが、それでも音の違いは出ますか?
店主:十分出ます。セッティングのやり方によってはあまり大げさではないシステムでも、音のレベルを高くすることは可能です。
お客様:45回転のほうが33回転より音がいいと言われますが、本当ですか?
店主:これは聴いてみないとわからない場合が多いです。日本では回転速度が早いから、音溝が大きいから音がいいとか言われていますが、レコード制作の過程から考えると一概にどちらが有利とは考えにくのです。私の経験している限りでは、LP、EPのフォーマットや回転数に関わらず、例えば、シングル盤を発売した後に、いろんなシングル盤を集めてLP化した場合にはシングル盤のほうが勝っていると言えます。またLPを発売した後に、そのLPからシングルだけを発売した場合にはLPのほうが勝っているようです。
レコーディングしたその日に制作されたレコードが最も音的に優れていて、時間が経てばテープの劣化によって音質も劣化します。劣化するとマスタリングをやり直す必要があります。そのときに音質は変わるのです。
音の優劣はレコード化された日がいかにレコーディングされた日に近いのかということが大きな要素になります。マスタリングの良し悪しなど他の要素も考慮する必要はありますし、回転数などのフォーマットによる場合もあるかもしれませんが、やはり聴いてみないと分からない場合が多いです。

他にもレコードをかけながら色々質問をいただいて、話している私も楽しかったがお客様も満足されたようで、かけた中の一枚をお買い上げいただいた。

左:Steely Dan / Aja (ABC AB 1006)
右:Joni Mitchell / For The Roses (Asylum SD 5057)

アップロードファイル 162-1.jpgアップロードファイル 162-2.jpg

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  • 2021年01月04日(月)14時10分

ターンテーブルベルト

毎年、年末には二人の子供たちが帰省するので少し賑やかになるのだが、今年は二人共コロナの影響で帰省を取りやめたので奥さんと二人きりの静かなお正月である。
元旦はお休みにして2日から仕事を始めたが、2日3日と来店される方はいない。コロナの影響で皆さん遠慮されているのだろう。

昨日郵便受けを見るとアメリカからの郵便物が届いていた。待ちに待ったターンテーブルベルトである。私はターンテーブルを2台使っていて、LP12をモノラル用、VPI HW19-MKIIをステレオ用にしている。

昨年夏ごろだったか、VPIのベルトが少し緩んできた様に感じていた。音の輪郭が若干甘いのである。10年ほど前に交換してそのままだったので交換時期が来たと思い輸入代理店に問い合わせてみたところ、「HW19-MKIIは古い機種なのでメンテナンスは行っていなくて、ベルトも手に入らない」とのことだった。で、その時はその内になんとかなるだろうと思いながら12月中頃にとうとうターンテーブルが空回りするようになったのである。
ステレオが聴けなくなると問題だが、たまたま10年前に交換した際の古いベルトを持っていたので試してみたらこちらは問題なく回転するので取り敢えずは大丈夫である。しかし早めに用意しておかないと、とんでもないことになる。

ネットで探してみると、アマゾンにもHW19用のベルトは掲載されていたものの在庫切れとなっているし、他では見当たらなく国内では入手出来ないのだ。
いや困った。どうしようと思いながらアメリカを探していたところアナログ関係のサイトに販売しているところがあったので、早速2本注文した。価格は1本約30ドルで、ターンテーブルベルトとして考えると30ドルでも高価なほうではあるが、以前国内で入手したときは約1万円だったので送料を加えてもかなり安く感じる。

アメリカから郵送だったら時間がかかったとしても2週間、早ければ年末にでも届くかなと思っていたが、正月3日の到着になったのだ。
早速ベルトを交換して聴いてみたところ、輪郭の甘さがなくなってピンと張り詰めた音になった。私にとっては何よりのお年玉である。
今年は幸先がいいかも。

VPI HW-19 MKII

アップロードファイル 161-1.jpg

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  • 2020年05月14日(木)16時08分

ステレオ・カートリッジとモノラル・カートリッジ

2002年か2003年だったと思うが、吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」でレコード・ライブをやったとき、「ステレオとモノラルではどちらがいい音?」みたいな話になったことがあった。当時の私はモノラルの素晴らしさをあまり感じていなかったので、ステレオが有利といったことを言った記憶がある。その時お客さんの一人が「モノラル盤はモノラル・カートリッジで聴けばいい」みたいなことをおっしゃったのである。でも、私は正直なところピンときていなかったんだな~。レコードはステレオ・カートリッジで聴くものだと信じていたし、モノラル・カートリッジの存在すら意識もしていなかった。
ご来店いただくお客様の中にも「私は殆どモノラル盤を聴いています」とおっしゃる方もいたのだが、そんなときも今考えるとお恥ずかしい話だが、ステレオの優位性を説いていたのである。

数年後、鳥栖のO石さんから「グラードのモノラル・カートリッジを取り寄せて欲しい」との要望があって取り付けに行ったことで、私の考えは180度変わってしまった。詳細は他でも述べているので省くが、モノラル・カートリッジで聴くモノラル盤の凄さに圧倒されて、鳥栖から帰ってすぐに同じカートリッジを取り寄せたのである。

最近はオーディオのイベントに出店する機会があり、東京、札幌、名古屋そして松本などに出かけていて、陳列するレコードは殆どがオリジナル盤でそれもモノラルが多く、ラインナップはジャズ、ヴォーカルそしてクラシックがメインである。
お客様の中には「モノラル・カートリッジを持っていないのでモノラルは聴かない」とおっしゃる方もいらっしゃるのだ。私は「ステレオ・カートリッジでモノラル盤を聴いても問題はありません。ただ、より高いクオリティを求めるのであればモノラル・カートリッジが必要です」と答えている。
興味を持たれる方には「出来ればプレーヤーを2台ないしはトーン・アームを2本にしてステレオ用とモノラル用に分けてください」と説明しているのだが、そこで理解していただく方も少数ではあるがいらっしゃるのだ。

レコードの歴史を辿ってみると、アメリカでは1958年にステレオが登場するまではモノラルしかなく、以後1967年ころまでモノラルとステレオステレオが並行して発売され、1968年以降はステレオのみになっている。但し、ヨーロッパなどアメリカ以外の国では若干年度の違いがあるが。
たくさんのオリジナル盤を聴いてくると、時代が新しくなるにつれて音が劣化しているように思えてならない。ジャズやヴォーカルのオリジナル盤を聴いていると特にそれを感じるのである。録音からレコード制作の時点で、イコライザーでの調整、リバーブ、多重録音など技術面の進歩に逆行するように音質は変化してくのを感じるのだが、皆さんは如何だろうか?当然70年代にも80年代にも優れた録音は多いのだが、私はやはり50年代のモノラル録音に自然な音質を感じるのである。

そんなモノラル録音をモノラル・カートリッジで聴いたときの優位性は、音色がよりナチュラル、フォーカスがピタッと合う、前に出てくる音や深い奥行きのなどの情報がより多くなる、それにスクラッチ・ノイズが極端に少なくなる等が挙げられる。
結果として、ミュージシャンの表現が伝わってくるしパワフルなエネルギーを浴びることも出来るのである。もちろんフェロモンも。


モノラルの魔力を教えてくれたレコード
Earl Fatha Hines / Fatha, The New Earl Hines Trio - Columbia CL-2320

アップロードファイル 160-1.jpg

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