レコードのススメ

第1章:レコード講座
 第9節 今週の一枚100選 D)マイルス・デイヴィス

新着レコードの中から今週の一枚として選んだレコードは2007年5月現在で198枚になります。これまで販売済みのものは即リストから外していましたので、お客様からは「そのまま掲載しておいて欲しい」との要望もありました。そこで、過去に選んだものから100枚をリストアップし、また推薦文に若干の加筆修正したものを10回ほどに分けて掲載します。第4回はマイルス・デイヴィスです。

Kind of Blue (Columbia CS-8163)
ジャズ史に名を残す名盤は数多くあるものの、この「カインド・オブ・ブルー」はその中でも群を抜いている。理由は、1958年というハードバップ真っ只中、新しいスタイルのモードを取り入れたこと、メンバーが後世に名を残す巨人達だったこと、たぐいまれに見る高音質盤、そして名演奏であることなど。演奏の素晴らしさがいろんな機会に紹介されていることは皆さんご存じの通りである。音は、A面一曲目のポール・チェンバースのベースが他のレコードで聴けるチェンバースとは違うのである。ホール・トーンというか壁に当たって跳ね返る音も録音されていて、直接音と間接音が上手い具合に混じり合っているし、マイルスのオープン・トランペットがナチュラルな音色(オリジ以外ではチャルメラみたいに聞こえる)で深々と響いてくる。このアルバムはステレオで聴いて欲しい。



My Funny Valentine (Columbia CS-9106)
1964年、マイルス・ディヴィスは若手ばかりのレギュラー・メンバーを引っ提げて、ニューヨーク・リンカーンセンターでコンサートを行いました。このときのレコーディングは、"My Funny Valentine"及び"Four & More"の2枚のアルバムとして発売されました。内容は、"My Funny Valentine"がスローテンポでしっとりとした曲、"Four & More"がアップテンポのエネルギッシュな曲に別れています。また、"My Funny Valentine"は1965年、"Four & More"は1966年の発売のため、音質の比較をすると若干"My Funny Valentine"のほうが若干優れているようです。トニー・ウィリアムス(ds)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)の溌剌としたプレイも必聴ですが、何といっても帝王マイルスのフレーズがあなたを酔わせます。音質は・・・・マイルスがそこで吹いています!



On the Corner (KC-31906)
60年代前半まで隆盛を誇っていたジャズも、70年代になると混迷を深め、モダン、フリー、フュージョン、ボサノヴァほか様々なスタイルはあるものの、どれも時代をリードするものにはなり得なかった。そんなジャズ界で、電気楽器やポリリズムの導入により既成の概念を打ち破り全く新しいスタイル(それがフュージョンと呼べるとは思わない)の音楽を創りあげたマイルス・デイヴィスの金字塔がこの作品です。9人のリズム奏者が創り出すエキゾチックなリズムは、後のあらゆるジャンルのリズムに影響を与えました。オリジナル盤、それも1A/1Aで聴くサウンドは、これまで国内盤などで聴いてきた”オン・ザ・コーナー”とは違った音楽として、聴く人の耳を、心を満足させてくれるでしょう。 注:タイトルの意味は黒人ゲットーでの踊り。



Relaxin' (Prestige PRLP-7129)
マイルス・デイヴィス・クインテット四部作のなかでも最も人気の高いアルバム。マラソンセッションのテープは4枚のアルバムに分けられて、1年ごとに発売されたが、Cookin'とこのアルバムがNYCラベルで、音のクオリティも非常に高い。マイルスのミュート・トランペットが素晴らしい音色で迫ってくる「If I Were A Bell」を聴いてみてください。1956年の熱い息吹が感じられます。ジョン・コルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)そしてフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の全員が素晴らしい。



Round About Midnight (Columbia CL-948)
1956年、マイルス・デイヴィスは歴史的にも有名なマラソンセッション(「クッキン」「リラクシン」など)を録音した後プレスティッジからコロンビアに移籍するが、このアルバムは1955年に録音されている。つまり、プレスティッジ在籍中にコロンビアの録音を行っていたわけである。(後にマイルス・デイヴィス・クインテットとして語り継がれるこのメンバーの録音は、プレスティッジでは「ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット PRLP-7014/1955年」が最初の録音だろう。)演奏内容は、一曲目の「ラウンド・ミッドナイト」でのマイルスのミュート・トランペットからただごとではなく、深く心にしみ込んできて、コルトレーンほかのメンバーも溌剌としたプレイを展開する。歴史に残るアルバムはぜひオリジで聴いていただきたい。



Miles Davis and Modern Jazz Giants (Prestige PRLP-7150)
1954年暮れ、マイルス・デイヴィスはセロニアス・モンクやミルト・ジャクソンなどとプレスティッジでの録音を行った。これがいわゆるクリスマス・セッションである。このときマイルスはモンクに「俺のソロのときはバッキング入れないでくれ」と言ったとか言わなかったとか。このアルバムに収録されている「ザ・マン・アイ・ラブ」などでは確かにマイルスのソロのときモンクはピアノを弾いていないが、ミルト・ジャクソンのソロになるとモンクのバッキングが入ってくる。それとA面1曲目「ザ・マン・アイ・ラブ(テイク2)」では、モンクがソロの途中手を止めてしまいベースとドラムだけになってしまう。すると、マイルスのトランペットが「弾けよ!」といった感じで入ってきて、モンクもそれに誘発されたようなソロを取り始めるが、次にはマイルスがソロを取り上げてしまった格好になる。ピーンと張りつめた緊張感のなか、マイルスとモンクのこのやりとりはスリリングこの上ない。このアルバムはジャズ史上に残る名場面を克明に記録したものです。



Cookin' (PRLP-7094)
今週の推薦盤には新着の中で最も素晴らしいと思うアルバムを選んでいるのだが、今回は優れたものがありすぎてちょっと困った。Kind of Blue, Dance Bash, My Favorite Thingsなども当然素晴らしいのだが、あまり入荷しないということで、このCookin'を選んでみた。有名なマイルス・デイヴィス・クインテット、マラソン・セッションは1956年に行われ、その演奏は4枚のアルバムに分けられて一年に一枚ずつ発売され、このCookin'が第一作に当たる。マイルスのトランペットには凄みがあり、レッド・ガーランドのピアノはコロコロ光りまたポール・チェンバースのベースはゴリッ,ドスッときて、完成されたクインテットの姿を堪能できる内容となっている。音もVan Gelderの真骨頂、ドスの利いた録音が「ジャズの録音とはこうあるべき」と語っているような聞こえ方をしてくれる。手元に置いたら幸せになれる一枚である。



Somethin' Else (Blue Note BLP ミ1595)
マイルス・デイヴィスがブルーノートに残したアルバムは、BLP 1501及びBLP 1502とこのBLP 1595の三枚(10”盤は除く)になるが、この「サムシン・エルス」はキャノンボール・アダレー名義になっている。契約の都合上キャノンボールにはなっているものの、もちろんリーダーはマイルスである。1曲目「枯葉」でのマイルスのミュートトランペットがくぐもって聴くものの心にしみ渡り、ハンク・ジョーンズも一世一代のソロ、バッキングを見せ、またアート・ブレイキーのシンバルレガートが実に正確で「ブレイキーってこんなに上手かったんだ」と思わせるようなバッキングを披露してくれる。音はヴァン・ゲルダー会心の出来、禁断の世界!オリジナリティの条件が全て揃った「サムシン・エルス」をお楽しみください。