レコードのススメ

第1章:レコード講座
  第9節 今週の一枚100選 C)Blue Note

新着レコードの中から今週の一枚として選んだレコードは2007年2月現在で189枚になります。これまで販売済みのものは即リストから外していましたので、お客様からは「そのまま掲載しておいて欲しい」との要望もありました。そこで、過去に選んだものから100枚をリストアップし、また推薦文に若干の加筆修正したものを10回ほどに分けて掲載します。第三回はBlue Noteです。

Horace Silver / Song for My Father (BLP-4185)
ホレス・シルバーが、ポルトガル生まれ、西アフリカ、カーボヴェルデ諸島で育った父に捧げたアルバム。タイトル曲は覚えやすいメロディーとアタック感の効いたリズムで発売後大ヒットとなり今日でも多くのジャズファンの支持を得ている。カーメル・ジョーンズとジョー・ヘンダーソンのフロントライン、シルバー、テディ・スミスそしてロジャー・ハンフリーのリズムセクションが一体となって作り出すエネルギーの素晴らしさは脱帽もの。ブルーノート、いやヴァン・ゲルダーだからこそ出来たジャズの表現がそこにある。ブルー・ミッチェル、ジュニア・クックなどが参加したクインテットの2曲はおまけ!



Art Blakey / A Night at Birdland Vol.3 (BLP-5039, 10")
1954年2月21日、アート・ブレーキーはクリフォード・ブラウン、ルー・ドナルドソンなど当時バリバリの若手を引き連れてバードランドに出演しました。その演奏は、ハードバップ誕生の瞬間として今なお語り継がれています。クリフォード・ブラウンとルー・ドナルドソンの火を噴くようなソロ、アート・ブレイキーのダイナミックなドラミングそしてMCのピー・ウィー・マーケットなど、生き生きと活躍している様子が手に取るように分かります。Blue Note Recordの素晴らしさを、アルフレッド・ライオンの慧眼を体験出来る10”アルバムです。



Dexter Gordon / Our Man in Paris (BLP-4146)
1962年、安住の地を求めてヨーロッパへ渡った(実際にはクラブ出演カードの許可が降りずにニューヨークを逃げ出した)デクスター・ゴードンは、その後15年以上ヨーロッパで活躍することになった。このアルバムはデクスターのヨーロッパ初録音で、旧友バド・パウエルとの再会セッションである。バド晩年のピアノ、それにケニー・クラークまで参加したセッションは、まさに豪快なデクスターのテナー・プレイを引きだし、現在もなお名盤の誉れ高い一枚となっている。このBlue Noteオリジナルでは、デクスターのテナーがゴリゴリ前にせり出し、シンバルのガシャン、ベースのガツンなどオーディオ的な要素も十分凝縮され、聴いた人に200%の満足を与えてくれるサウンドとなっている。Blue Noteはモノラルに限る!!



Bud Powell / The Amazing Bud Powell Vol.1 (BLP-1503)
2004年最初の今週の一枚は、パーカー、ガレスピーと並んでモダンジャズの創設者とされるバド・パウエルです。Blue Note 12インチLPの第3番目となるこのアルバムには、1949年、51年、53年の演奏が収録されています。中でもカーリー・ラッセル、マックス・ローチとのトリオによる1951年の"Un Poco Loco"及び"A Night in Tunisia"では、狂気との狭間に揺れ動くパウエルのインプロビゼーションが克明に記録されています。巨人といわれるジャズメンのなかには、レコードに吹き込まれた魂の叫びを感じさせてくれる人がいますが、パウエルはその代表的な存在といえるでしょう。50年代のBlue Noteはここから始まった。



Herbie Hancock / Maiden Voyage (BST-84195)
「処女航海」・・・響きのいい言葉ですね~。今どき処女なんて言葉は死語になってしまったかな?このアルバムが発売された頃は激動の60年代真っ只中。学生運動にうつつを抜かす輩を尻目にひたすらジャズ喫茶に通い、トニー・ウィリアムスのシンバルレガートを聴いはショックを受けたりした青春時代だった。今回は大のつく名盤が多い中、このアルバムを選んだ理由は思い出の一枚ということと、ブルーノート4000番台のなかでも特に音がいいことにある。モードなんて聴かないとかいう人も、このアルバムを一度ターンテーブルに乗せてジャズの醍醐味を味わったら病みつきになるかもしれない。フレディ・ハバードとジョージ・コールマンがスピーカーから飛び出してきますよ。



Bobby Hutcherson / Happenings (BLP-4231)
1960年代中頃、マイルス・クインテットのメンバー、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコックなどを中心とした若手ジャズメンは、モード手法の発展した新しいスタイルを作り上げていった。これが新主流派と呼ばれる流れだが、バイブ奏者ボビー・ハッチャーソンもその中の重要なメンバーである。このアルバムは、そのハッチャーソンの代表作。バイブ・カルテットというMJQと同じ楽器編成ではあるが、演奏内容は全くの硬派だ。A面1曲目、モAquarian Moonモ のイントロからただ事ではなく、モダンジャズ全盛時代の溢れんばかりのエネルギーを全身に浴びることが出来、当時の新進気鋭達の熱い思いがヒシヒシと伝わってくる。これは、アルフレッド・ライオン、フランシス・ウルフそしてルディ・ヴァンゲルダーがブルーノート・レコードとして残した最後の贈り物の1枚だ!



Lee Morgan / The Sidewinder (BLP-4157)
今回は今週の一枚にしたいアルバムがたくさんあるが、その中でも最も好きなリー・モーガン/サイドワインダーを選んでみた。このアルバムはステレオ・オリジは結構見かけるがモノラル・オリジは少ない。ステレオも音的に魅力的ではあるが、モノラルではメンバーの全員がスピーカーの真ん中からドンと飛び出してきて、モーガンやヘンダーソンが存在感のあるパワフルなソロを聴かせる。また、タイトル曲のイントロ部分でのボブ・クランショウのベース・サウンドは野太い。聴いていてのけ反るような音圧には、ただただ圧倒されるばかりである。Blue Noteはモノラルに限る!



Grant Green / Street of Dreams (BST-84253)
グラント・グリーンは60年代のジャズ・シーンでキラッと光るギタリストであり、殆どの作品はブルーノートに残されている。このアルバムはアルフレッド・ライオンがブルーノートの経営から身を引き、経営母体がリバティに変わった直後に発売されたものと思われるが、雰囲気は完全にライオン制作のブルーノート盤。グリーンのスピード感溢れるギターが疾走し、またハッチャーソン、ヤング、エルヴィンのサポートも素晴らしい。同じブルーノートでもリバティになると音の面ではイマイチになるが、これは紛れもないブルーノートの音だ。



Anthony Williams / Spring (BST-84216)
今回は今週の一枚候補が目白押しで、色々考えたあげくこのBlue Note盤を選んでみた。1960年代になると、レコード業界にも再編の波がやってきて、それまで細々とレコードを製作していた会社が淘汰されメジャーレーベルの傘下になったところは多い。それと呼応するようにレコードの音質に変化が見られ、ジャズに関して言えば明らかに音が悪くなっていった。この現象は1962~3年頃から現れてくるのであるが、モダンジャズ三大レーベルに挙げられるBlue Noteにしても、1966年Liberty傘下になるととたんに音質が変化しているのである。トニー・ウィリアムス(当時はアンソニー・ウィリアムスとクレジットされていた)のBlue Note第2作目となるこのアルバムは、ウェイン・ショーター、サム・リバースというマイルス・クインテットでお馴染みのテナーサックス奏者二人をフロントラインに置いたクインテットによる演奏で、典型的な新主流派のスタイルになっている。注目すべきは、左右のスピーカーから二人のテナーサックスがグイッと前に飛び出してきて暴れ回り、ジャズの醍醐味を十二分に伝えてくれることである。もちろんトニーのブラッシワークやシンバルレガートも冴えわたり、60年代中盤に時代をリードしていたジャズメン達の熱気もはっきり伝わってくる。アルフレッド・ライオン、フランシス・ウルフそしてヴァン・ゲルダーのコンビが放った最後期のアルバムだが、何と言ってもブルーノートは凄い!