店主のひとりごと

 

  • 2022年08月31日(水)09時35分

45回転は音がいい?

ここ数ヶ月、EPやシングルの入荷が多く、お客様にはかなりのものをお買い上げ頂いていて、メールなどで感想を聞かせてもらえるのである。
「最近、7インチ盤を何枚か聴いているのですが、33回転と45回転では音質的に45回転のほうが有利なのでしょうか?」との質問があった。
確かに、45回転盤は33回転盤よりも音溝をトレースする時間が長い、音溝が大きいなどの理由で音的に有利という説があるのは何度か目にしている。

ある程度同じ音源の7インチ盤及びLPを聴く事が出来て得た結論は?
その前に、同じ曲がシングル、EPそしてLPには収録されている場合にはいくつかのパターンが有ることから説明しよう。
1. シングルを発売したら大ヒットしたのでLPにも収録した。
2. LPに収録されていた曲の評判が良かったのでシングル・カットして発売した。
3. シングルしか発売されたことがない曲を集めてLPを作った。
以上のパターンの場合、聴き比べてみるとそれぞれに音の違いがあり、45回転だからこちらのほうが優位とは言えなかった。

1990年ころに発売された米誌「アブソリュート・サウンド」に、「録音された日に制作されたレコードが音的には最も優れている、日にちが経過するほど音は劣化する」との記載があったのを思い出した。ほとんどのケースがこれに当てはまり、1の場合はシングルが優位、2はLPが優位、3はシングルが優位だった。但し、例外もあるがこれについては別の機会に。
フォーマットより時間の経過のほうが音質に与える影響は大きいようである。

別の角度からの質問もあったので紹介しておこう。
「私は最近ある程度の音であれば、演奏内容が良ければ空気感も共存するような気がしますがどうでしょうか。空気感は録音状況に依存するのでしょうか?」
空気感は録音した場所や使っていた機材、またエンジニアの技術による要素のウエイトが高いと思う。50年代初期のコロンビアではニューヨークのフリー・メイソン寺院をスタジオとして使っていて、その後買い取ったとのこと。そんな音響の優れた場所で録音した場合により空気感を感じるのである。
例えば” Vic Dickenson / Vic Dickenson Septet, Vol. 1 (Vanguard VRS-8001)”は、ジョン・ハモンドがコロンビアからその寺院やスタジオを提供してもらってレコーディングしたとあり、また、”Lee Wiley/ Night In Manhattan (Columbia CL-6169)”も、あくまでも想像だが、同じ場所ではないだろうかと思えるのである。
他のレーベルでも、例えばルディ・ヴァンゲルダーのヴァンゲルダー・スタジオなど、各レーベルそれぞれ優れた場所を使用していたとは容易に想像できる。

鮮度と空気感は少し異なるもので、中には空気感は乏しいが鮮度は高いもあるのだ。私の音質評価は空気感をより重要視しているのである。


左:Vic Dickenson / Vic Dickenson Septet, Vol. 1
右:Lee Wiley/ Night In Manhattan

アップロードファイル 174-1.jpgアップロードファイル 174-2.jpg

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  • 2022年06月23日(木)09時34分

一枚一枚のレコードに

レコード店を始めて22年になる。これまで聴いたレコードは何枚くらいになるのかな?あんまり数えていないけど、普通に聴いている方たちに比べたら少しは多いと思う。
聴きはじめはジャズのインストが殆ど、他のジャンルにはあまり興味はなかった。しかし、入荷するものにはヴォーカル、ロック、クラシックと色んなジャンルが有るのだ。
そこで、音的にどうだというふうに思うようになった。しかし、ジャンルが違うとこれまで聴いてきたジャズとは音の鳴り方が違うのだ。ポピュラー系の音にはついていけるけど、クラシックはサッパリ、弦楽器のハーモニーが分からない。どの音がいい音か、どの音はイマイチなのかはっきりしない。
元々自分の聴き方は音の姿形を見る聴き方なのだ。何時そうなったのかははっきりしないが、姿形が見えるレコードはいい音だなと思うようになっていた。ポピュラーソングは分かりやすいけど、クラシックは難しいのよね。

聴く角度としては、以前はステレオを中心に聴いていたが、モノラル・カートリッジでモノラル盤を再生する、ということをやりだした後、聴き方が変わったのである。1950年代始めから中盤のモノラル盤には桁違いの音質がある。何故なのかを考えているうちに色んなことが分かってきたのだ。
・シンプルな録音である
・SN比が高い
・リバーブを使っていない
・オーバーダブをやっていない
・イコライザーによる帯域バランスの調整をやっていない、ないしはやったとしてもほんの少々
・一発録音
などが考えら、結果として
・音離れがいい
・空気感抜群のものが多い
・立体音場も十分現れる(ステレオとは違いがあるものの)
・帯域バランスが自然のものにより近い
・人の声が人の声として出てくる
・ミュージシャンの表現、感情がより伝わってくる。

そんなことを踏まえながら聴いていくといつの間にかクラシックの音質も苦手ではなくなってきたのである。
ただ、私はモノラルの音質がステレオより勝っているとは思っていない。上記を踏まえながら聴いても、ステレオにもTAS Super Disc、長岡鉄男のA級外盤セレクションほか優れた音質のレコードはたくさんあるのだ。
例えば、”Enya / Watermark”は多重録音をかなり重ねながら作成されているものの、それが音質向上に役立っているし、”Simon & Garfunkel / Parsley, Sage, Rosemary & Thyme”はリバーブや多重録音を見事に使いこなしている。
結局、ステレオ、モノラルは違うものとして捉えたほうがベターだと思っている。


Enya / Watermark

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  • 2022年06月23日(木)08時35分

血圧測定

4月、博多のK医院に行ったときのこと、診察室で先生の前に座ると血圧測定から始まる。
Yさんが測定器を持ってこようとしたとき、別の看護師さんが「私がやります」と言って計るのを交代した。Yさんに計って欲しかったのに。
「116の60です」
私の血圧はだいたい正常だ。

数日前、再びK医院へ。
受付で待っていると私の番になって「新納さん」と呼ぶ声。Yさんである。
いつものように診察室の前でご挨拶、なんかいつもと違う。
「雰囲気が変わりましたね?」
ニコニコしながらYさん「髪切ったんです」
「素敵ですね」・・・と言いたかったけど、余計なことを言うと嫌われるかもと思い言えなかった。

先生の前に座って、血圧測定から始まる。
今日は邪魔する人がいなくてYさんの担当である。
ちょっとドキドキ。


「141の80です」
えっ、いつもよりかなり高め、ひょっとして高血圧?
Yさんに計ってもらったので、興奮して血圧が上がったのかも。


Abbe Lane / Abbe Lane with Xavier Cugat and His Orchestra

アップロードファイル 172-1.jpg

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  • 2022年04月13日(水)10時15分

ステレオ・カートリッジ

ここ数年、オーディオの音を求めるのであれば機器の選択より周辺環境の整備が重要ということをはっきりと自覚するようになった。そのためお客さんと話すときも「機器は何でもいいですよ。周辺の対策をして、その機器のパフォーマンスを最大限引き出せばいい音は出ます」と言っている。しかし、今回カートリッジを新調してみて、「音の入口&出口は重要」という言葉は無視できないと考えたので入り口について話してみよう。

現在のシステムの原型を導入したのは1990年代前半である。それ以後のカートリッジ、それもステレオ・カートリッジの変遷は以下である。
Sumiko Blue Point Special
Benz Micro Ace
ZYX R-100
Grado Platinum 3

私は元々ステレオ聴きだったので、ステレオをいかに上手く鳴らすかに重点を置いていた。で、マーチンローガン CLS II-Zを導入したとき、佐藤俊哉さんやシンメイさんの勧めでステレオ・カートリッジはスミコ・ブルーポイント・スペシャルにした。理由はいくつかあるが、価格的にそんなに高いものではない、できるだけ昇圧手段を取らないでいいように出力が高い、それに音質的に満足できるものなどがある。また、この頃はまだモノラル・カートリッジの存在さえを知らなかったので、オーディオはステレオ・カートリッジで聴くものだと考えていた。
スミコの音に関しては十分満足していたし、不足は感じていなかった。ただ、カンチレバーの消耗が早かった記憶がある。

レコード店を始める前後だったと思うが、ベンツ・マイクロ・エースという質の高いカートリッジがあるという話を聞いて使ってみることにした。高出力でありこれは良かった。価格はスミコより若干上だったが、人の姿形とかより明瞭になったものの自分の出したい空気感も満足だった。ただ、カートリッジは消耗品だから長年使っていくうちに針先に寿命が来たので、交換しようと思ったが、メーカー側の問題で針交換が出来なかった。(注:最近は出来るらしい)

次に国産のZYXが私の出した音を出せるかもしれないということを聞いたので価格はかなり上がるがR-100を導入した。こちらはMCカートリッジであり出力が低く、これまでと同様昇圧手段を取らずに使っていたが、ヴォリュームのメモリを2時から3時で使う必要があったので、どうもフルに力を発揮できない。そこで昇圧トランスを導入したところ、大正解となった。ヴォリュームの位置は12時くらいまで下がり、人の姿かたち、空気感も充分である。それに、これまで使ったカートリッジよりもワイドレンジなところも気に入った。

花見に来て以降、だいたいR-100をメインに使っていたので満足していたのだが、7~8年経ったのでこちらも流石に経年劣化して針先交換の時期が来た。交換しようと価格を調べたら、機種も若干代わっていて価格は大幅アップ、針交換価格が以前の新品価格とほぼ同じになっているのだ。
レコード屋は儲からないからそんなに高いカートリッジは導入できない、などいろいろ考えて取り敢えず手持ちのGrado Platinum 3を使うことにした。しかし、残念ながら私の要求を叶えてはくれなかった。決してGradoというメーカーが良くないというわけではなく、多分これはエントリー・タイプなので仕方がないと思う。

1月末、一大決心をしてZYX R-100の針交換をお願いした。「少し時間がかかります」とのことで、3月はじめに届いた。以前のR-100は黒のボディだったが、新しいタイプは黒を基調の半透明ボディで名前もUltimate 100に変わっている。
取り付け&調整が終わって聴いてみると・・・R-100とはかなり違う。そう、グレードアップしているのだ。何が違うかと言うと、解像度、透明感、音場の広さなど全ての面で質が上がっている。音の輪郭がはっきり出るし、空気感も良好、花見でこれまで出せなかった背の高さも充分である。
もっと早く交換すれば良かった。


ZYX Ultimate 100

アップロードファイル 171-1.jpg

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  • 2022年01月25日(火)16時12分

イージーリスニング天国3

桑本洋氏著:「イージーリスニング天国3」が届いた。
桑本さんの著作は「イージーリスニング天国1」、「イージーリスニング天国2」そして「ぶらりヴォーカル三昧」などがあり、タイトル通りイージーリスニング系のレコードを紹介されているが、ヴォーカルやジャズもあり聴かれているポイントが私とは違う角度なので興味深い。そして、知らないミュージシャンやレコードが多く、またどの曲も丁寧に聴かれているのがよく分かるので参考にさせてもらっている。

「3」の内容を少し紹介してみよう。
本作では勿論イージーリスニングがメインではあるが「ポピュラー・ピアノの楽しみ」、「弾き語り女性ヴォーカルあれこれ」、「ラテンピアノはご機嫌」といった項目がありピアノにも多くの誌面が割かれている。
今回もやはり私の知っているミュージシャンより知らない名前のほうが多いのだけど、中でも目を惹いたのが「ジェス・ステイシーあれこれ」である。ステイシーは「ベニー・グッドマン/1938年カーネギーホール・コンサート」での名演奏「シング・シング・シング」の後半に見事なピアノソロを披露した人で他にも聴きたいと思ったことはあるが、これまで彼のレコードは見たこともなく存在していることすら知らなかった。しかし、桑本さんは2枚のリーダー・アルバムを紹介されている。これは貴重な情報である。

「弾き語り女性ヴォーカ・・・」ではキャロル・シンプソン、「ラテンピアノ・・・」ではスタンリー・ブラックなど私の好きなところも紹介されていて、またジャケット名盤も登場している。
それに紹介してあるレコードのタイトルに加えてレーベル名及びレコード番号も記載されているし10インチ盤も出てくるのだ。そう、桑本さんはオリジナルを聴いての感想を述べられているのである。

そして最後に紹介されたレコードは、・・・ワォ!


追記:ディスクユニオンにて発売中

アップロードファイル 170-1.jpg

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